東京高等裁判所 昭和42年(行コ)29号 判決 1967年10月25日
控訴人(原告) ヱビス食品企業組合
被控訴人(被告) 公正取引委員会
訴訟代理人 板井俊雄 外二名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴人代表者は、「原判決を取消す。本件を東京地方裁判所に差戻す。」との判決を求め、被控訴人指定代理人らは、主文第一項と同旨の判決を求めた。
当事者双方の事実上及び法律上の主張は、控訴人代表者において左記のとおり主張を附加し、被控訴人指定代理人において控訴人主張の事実はすべて争うと述べたほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。
一、控訴人は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下、「独占禁止法」という。)第四五条第一項、第二項の規定により、公正取引委員会に対して同法の規定に違反する事実を報告し、必要な調査を求めるその権利は、広く国民一般に附与されていることを主張してきた。国民は、その権利の行使により公正取引委員会に対して、職権をもつて必要な調査をすることを義務付けることを容認されている。右調査の結果、報告の事実が違反にならないと認めたときは、公正取引委員会は自身の裁量権の発動たる不問に付する決定をするのであるが、この場合に注意すべきは、右決定とともに、報告者たる国民の調査を求める権利も、これによつて消滅することである。このことは、明らかに、右決定が公正取引委員会の行政処分に他ならないことを示すものである。本件各訴えは、被控訴人が控訴人の報告に対して右決定をしないことにつき、不作為の違法確認を求める訴えを主眼とし、その他は、いずれも、附随的な訴えである。
二、原審は、口頭弁論を開くことなく、控訴人の各訴えを、いずれも、却下する旨の判決を言渡した。しかしながら、「国民の権利自由の規制にかかり、その手続について行政庁に裁量権がある行政処分の手続過程に対する司法審査の方法は、被告行政庁の側において、処分の手続過程が恣意、独断ないし他事考慮の介入を疑うことがいわれのないと認められるような手続であることを主張、立証すべきものとする方式により行われるべきである」(東京地方裁判所昭和三八年一二月二五日言渡判決)と解するのを相当とする。「行政処分の無効原因の主張としては、単に抽象的に処分に重大明白な瑕疵があると主張し、また処分の取消原因が当然に無効原因を構成すると主張するだけでは足らず、処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大明白な誤認があることを具体的事実に基づいて主張すべきである」(最高裁判所昭和三四年九月二二日言渡判決)としても、控訴人は、昭和四二年四月四日付四二公官総第一七七号通知書の送付を受けたけれども、同通知書記載の内容は不実であつて、被控訴人が必要な調査を行なつたように見せかけながら、実は故意に必要な調査もせずしかも、内部処理として不問に付すべきものとしたうえ、一総務課長名をもつて右通知書を送付し、これをもつて、恰も、対外的効力を生ずる行政処分としての決定通知をしたかのごとく偽装したものであるとの事実について、具体的に詳細な事実を掲げて主張しているのである。従つて、原審が、被控訴人の主張、立証も提出させず、直ちに上記のような判決を言渡したのは誤まりである。
理由
一、不作為の違法確認及び教示その他の行為を求める訴えについて
控訴人は、独占禁止法第四五条第一項の規定に基づき、被控訴人に対して同法の規定に違反する事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めたが、被控訴人がなんらの処分もしないので、この不作為について行政不服審査法第七条の規定により被控訴人に対して異議の申立をしたにかかわらず、被控訴人は、その後相当の期間を経過しても、これに対してなんらかの決定その他の行為をすることを怠つているから、控訴人は被控訴人に対し、右不作為の違法確認と適法な教示その他の行為をすることとを求める旨を主張するから判断する。
行政事件訴訟法第三条第五項に規定する不作為の違法確認の訴えは、行政庁が私人から法令に基づく申請を受け、相当の期間内になんらかの処分又は裁決をすべきにかかわらず、これをしない場合に、その不作為が違法であることを宣言し、これによつて不作為の状態を解消させ、申請者にその後の救済の道を開くことを目的とするものである。従つて、この訴えは、申請者が法令に基づく申請権を有し、申請を受けた行政庁が、申請に対応する処分その他の公権力の行使に当る行為をもつて応答すべき義務を負うことを要件とし、行政庁がこのような義務を負わない場合には、この訴えは許されないものといわなければならない。ところで、独占禁止法第七〇条の二の規定によれば、被控訴人が同法第四五条ないし第七〇条の規定によつてした審決その他の処分については、行政不服審査法による不服申立をすることができないものとされており(なお、行政不服審査法第四条第一項但書参照)、この規定は、被控訴人が独占禁止法第四五条の規定による報告、措置要求に対して応答しないという不作為についても、その適用があるものと解されるから、控訴人がその主張するような理由で行政不服審査法第七条の規定によつて異議申立をすることは、法令上許されないところであつて、法令の規定による申請権に基づくものということはできず、被控訴人も、これに対してなんらかの応答をすべき義務を負うものではないといわざるを得ない。また、行政庁がなんらの処分もしていない場合には、たんにその不作為に対して異議申立があつたというだけで、行政庁が異議申立人に対してなんらかの教示その他の行為をすべき義務を負担するに至る理由もないことは、行政不服審査法第五七条の規定に照しても明らかである。
なお、控訴人は、右異議申立の前提である事実の報告、調査要求は、独占禁止法第四五条第一項の規定により一般国民に附与された権利であるとして、被控訴人がこれに応答することを義務付けられていると主張するけれども、仮りに控訴人の主張のとおりに解するとしても、被控訴人がこれに応答しない場合に、これに対して行政不服審査法の規定による異議申立をすることが許されないことは上記説示と変るところはないばかりでなく、後に述べるように、右独占禁止法の規定は、被控訴人が審判手続を開始するにつき、その職権の発動を促す端緒について規定したに止まり、当該報告書に対して被控訴人が審判手続の開始その他適当な措置をとることを求める具体的な請求権を付与したものとは解せられないから、控訴人の右主張は採用できない。
してみれば、被控訴人が右のごとき作為義務を負う場合であることを前提として、その不作為の違法確認と右各義務の確認ないし履行を求める控訴人の訴えは、実体上の判断をするまでもなく、許されないものといわなければならない。
二、決定の不存在確認を求める訴えについて
控訴人は、控訴人が昭和四〇年八月三日独占禁止法第四五条第一項に基づき被控訴人に対してした報告に対し、被控訴人が、真実はそのような決定をした事実はないのに、昭和四二年三月二四日に控訴人の右報告を不問とすることに決定したとして、その旨の不実の通知(同年四月四日付四二公官総第一七七号)を控訴人に送付してきたと主張し、右決定が存在しないことの確認を求めるから、次にこの点について判断する。独占禁止法第四五条第一項、第二項の規定によれば、何人も、同法違反の事実があると思料するときは、被控訴人に対し、その事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができ、右報告があつたときは、被控訴人は、事件について必要な調査をしなければならないとされているところ、同法の目的、同法の規定による審判手続の構造から考えると、右第四五条の規定は、事件の関係人にかぎらず広く一般国民に違反事実の報告をすることを認め、被控訴人がこのような報告によつても調査権を発動し得る道を開いたもので、被控訴人の審査手続開始の職権発動を促す端緒に関する規定であるに止まり、同条の規定によつて、当該報告者に対して、被控訴人が適当な措置をとることを求める具体的請求権までをも付与した趣旨ではないと解するのを相当とする。従つて、報告、措置要求のあつた事件について、被控訴人が事件を不問に付する旨の決定をしても、その決定は、当該報告者の具体的権利、利益をなんら侵害するものではなく、公正取引委員会の審査及び審判に関する規則第一九条に、被控訴人が事件の審査の結果違反とならないと決定したときは、事件の報告者にその旨を通知することができると規定しているのも、事件処理に関する事後の便宜の措置を定めたに過ぎないものと解される。独占禁止法第二六条には、同法第二五条の規定による損害賠償請求権は、審決確定後でなければ、裁判上これを主張することができない旨が規定されているけれども、右は審決確定に伴う特別の効果を付与したもので、報告、措置要求に当然に伴う利益であるとは解し難いから、これをもつて、当該報告者に具体的措置を要求する権利が付与されているものとすることもできない。控訴人は、被控訴人が報告のあつた事件につき不問に付する決定をすると、これとともに、当該報告者の調査を求める権利も消滅すると主張するけれども、措置要求が権利であることを前提とする主張の採り得ないことは、上に述べたところから明らかである。
右の次第で、控訴人が不存在確認の対象として主張する、被控訴人がしたとする前記決定は、控訴人の権利その他法律上の地位に直接影響を及ぼすものではなく、公権力の行使としての行政処分に当らないから、抗告訴訟の対象となり得ず、従つて、その不存在確認を求める訴えは、不適法といわなければならない。
三、損害賠償を求める訴えについて
控訴人は、さらに、被控訴人が、独占禁止法第四五条第一項の規定による控訴人の報告、措置要求を故意に無視して、違反行為の排除措置を違法に怠つている結果、損害を蒙むつたと主張し、被控訴人に対してその賠償を請求するところ、一般に行政庁は法令に特別の定めがないかぎり、独立して権利義務の主体となることはできないから、国の行政機関である被控訴人を相手方とする右訴えは、不適法といわざるを得ない。
四、よつて、控訴人の本件各訴えは、いずれも不適法で、その欠缺を補正することはできないものというべく、右と同趣旨で右各訴えを却下した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条第一項によりこれを棄却し、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 伊藤顕信 江尻美雄一 園田治)
原審判決の主文、事実および理由
主文
本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告の本件請求の趣旨は、「原告が昭和四一年一〇月二〇日、同年一一月二六日及び同年一二月一九日被告に対してした不作為についての異議申立てに対し、被告がなんらかの決定その他の行為をしないことは違法であることを確認する。被告は原告の右異議申立てに対し、適法な教示及び処分その他の行為をせよ。原告が昭和四〇年八月三日私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独占禁止法という。)四五条一項にもとづき被告に対してした報告に対し、被告が昭和四二年三月二四日にしたとする決定は存在しないことを確認する。被告は原告に対し、金二四六万円及び昭和四二年三月一日以降右支払いずみにいたるまで一箇月金一七万五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」というにあり、その請求原因の要旨は、次のとおりである。
原告は、従来神戸市葺合区磯部通り二丁目にある株式会社古屋商店神戸出張所から大洋漁業株式会社のソーセージ類を買い付けていたところ、右両会社及び香川県下の同業者で組織する香川<は>会は、昭和四〇年四月頃から独占禁止法に違反して、原告に対し別紙記載のような不当な取引制限をし、また不公正な取引方法を用いた。そこで、原告は、同年七月以来再三にわたり、同法四五条一項にもとづき、被告に対してその事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めたが、被告がなんらの処分もしないので、この不作為について、行政不服審査法七条にもとづき請求の趣旨記載のとおり被告に対して異議の申立てをした。しかるに、被告は、その後相当の期間を経過したにかかわらず、右異議申立てに対してなんらかの決定その他の行為をすることを怠つている。のみならず、被告は、原告が右の不作為に対して訴訟を提起する旨警告したところ、真実はそのような決定をした事実がないのに、昭和四二年三月二四日に原告の前記独占禁止法にもとづく報告を不問とすることに決定したとして、その旨の不実の通知(同年四月四日付四二公官総第一七七号)を原告に送付してきた。そして、以上のように被告が原告の報告を故意に無視して、前記古屋商店等に対し独占禁止法上の排除措置をとることを違法に怠つている結果、原告は昭和四二年二月末日までに金二四六万円の損害を蒙つたほか、その後においてもなお一箇月あたり金一七万五、〇〇〇円の割合による損害(うち金一〇万円は信用失墜により計画がそごしたための損害、残額は原告役員の慰藉料相当分)をうけている。よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決を求めるため本訴におよんだ。
理由
一 不作為の違法確認を求める訴えについて
行政事件訴訟法三条五項の定める不作為の適法確認の訴えは、行政庁が法令にもとづく申請に対し、相当の期間内になんらかの処分または裁決をすべき義務を負うにかかわらず、これを履行しない場合に、その義務不履行の違法を宣言することにより不作為状態を解消させ、申請者のためにその後の救済の道を開くことを目的としたものである。したがつて、この訴えは、行政庁が当該申請に対してこれを認容または棄却もしくは却下するなどなんらかの応答義務を負うことを当然の前提としたものであり、かかる応答義務を有しない場合すなわち、行政庁のする当該処分が国民の側からの申請によつておこなわれるものであるということが法令上認められていない場合には、不作為の違法確認の訴えは許されないといわなければならない。
本件において、原告は、原告の独占禁止法四五条一項にもとづく報告に対し、被告が同条の定める適当な措置をとらないことを不服として、行政不服審査法七条により被告に対して異議の申立てをし、この異議申立てに対する不作為について違法の確認を求めているが、独占禁止法七〇条の二によると、被告が同法四五条ないし七〇条の規定によつてした審決その他の処分については、行政不服審査法による不服申立てをすることができない旨定められており(なお行政不服審査法四条一項但書)、この規定は、右四五条一項にもとづく報告に対し、被告が同条の定める適当な措置をとらないという不作為についてもその適用があるものと解される。してみると、被告の右の不作為に対し行政不服審査法によつて異議を申し立てるということは、もともと法令上認められていないものというべきであるから、これに対して被告がなんらかの応答をなすべき義務あるものとすることはできない。それゆえ、原告の本件異議申立てに対する被告の不作為をとらえて、その違法確認を求める訴えは、前記の理により不適法であるといわなければならない。
二 教示その他の行為を求める訴えについて
行政不服審査法五七条は、行政庁の教示について定めているが、同条の規定によつて明らかなように、当該行政庁がなんらの処分もしていない場合には、たんにその不作為に対して異議申立てがあつたというだけで異議申立人に対し右の教示をすべき義務を負うものではない。また、原告の前記異議申立てに対して被告がなんらかの決定その他の行為をすべき義務のないことはさきに述べたとおりである。したがつて、原告が被告に対し、抗告訴訟により右各義務の確認ないしその履行を求める訴は、許されないというべきである。
三 決定の不存在確認を求める訴えについて
原告が右の訴えによつて不存在の確認を求める対象は、独占禁止法四五条一項にもとづく原告の報告に対し、被告がこれを不問とすることとした決定である。なるほど同法四五条は、何人も同法の規定に違反する事実があると思料するときは、被告に対してその事実を報告し、適当な措置をとるべきことを求めることができるものとし(一項)、この報告があつたときは、被告は、事件について必要な調査をしなければならないと定めている(二項)が、同法の目的が、関係人の個人的利益の保護ではなく、一般消費者の利益を確保し、国民経済の民主的で健全な発達を促進することにあり(一条)、これに照応して、同法の違反事実については、事件の関係人にかぎらず広く一般人からの報告を認めるとともに(なお、検事総長にも同様の権限が与えられている。七四条条)、被告が違反事実ありと思料するときは職権をもつて適当な措置をとることができるものとし(四五条三項)、しかも審判手続が開始された場合(四九条)においても、報告者はその手続に関与しうる地位を当然には認められていない(五九条参照)ことなどから考えると、前記四五条一項の定める報告及び措置請求は、被告に事件の端緒を与えて同条二項の調査をおこなわせることにより、違反事実に対する被告の排除措置の職権発動を促すものにとどまり、それ以上に、報告者が被告に対し当該事件について審判を開始しまたはその他の措置をとるべきことを求める権利を有するものとは解されない(公正取引委員会の審査及び審判に関する規則一九条は、被告が審査の結果違反とならない旨の決定をした場合の便宜の措置を定めた規定であつて、報告者に右の権利を認める根拠にはならない)。もつとも、独占禁止法二五条及び二六条によると、事業者の同法違反行為によつて損害をうけた被害者の当該事業者に対する無過失損害賠償請求権は、違反行為を認定した審決が確定した後でなければ裁判上これを主張することができないと規定されているから、被害者の報告した事件が審判に付されないときは、その被害者は右損害賠償請求権を行使する機会を失うことになるけれども、同法の定める審判制度が、もともと公益保護の立場から行政的手段によつて、同法に違反する行為によつて生じた違法状態を排除するための制度であることにかんがみると、審決の確定という事実に右のような特殊の損害賠償請求権に関する効果が附与されているのは、それによつて被害者の救済を容易にすると同時に、間接に違反行為を防止するという目的から附随的に認められたものというべきであり、また当該行為が民法上の不法行為にあたる場合には、審決の有無にかかわりなく、被害者が民法七〇九条にもとづく損害賠償請求権を行使することはなんら妨げられないのであるから、審決がなされることにより被害者が前記の特別の損害賠償請求権を取得しうるからといつて、そのためにとくに審決を求める権利が被害者に与えられているということはできない。してみると、原告の本件報告及び措置要求に対して被告がしたとする前記決定は、原告の権利その他法律上の地位に直接影響を及ぼすものとはいえないから、抗告訴訟の対象となる行政処分に該当せず、その不存在確認を求める訴えは不適法である。
四 損害賠償を求める訴えについて
一般に行政庁は法令に特別の定めがないかぎり、権利義務の主体となることはできないから、国の行政機関である公正取引委員会を被告とした本件損害賠償請求の訴えもまた不適法である。
五 以上のとおり原告の本件訴えはいずれも不適法で、その欠缺を補正することができないから、民事訴訟法二〇二条により右訴えを却下することとし、訴訟費用の負担につき同法八九条を適用して、主文のとおり判決する。(昭和四二年七月五日東京地方裁判所判決)
別紙
一 <は>大洋漁業はソーセージ類を販売するに当り傘下係列販売業者と再販売価格の維持と特定地域販売業者の間に於ける再販売地域の協約を策定し之に参与しております。
二 原告は神戸市葺谷区磯部通り二丁目(株)古屋商店神戸出張所と取引を久しくしており<は>ソーセージ類をも数年間引続き購入しておりました。その取引に就ては大洋とその一次店たる古屋との間に於ける相談の上で原告は常に古屋へ注文する事なく直接大洋漁業松山工場へ注文して直ちに送品して貰らえる様に取り決めをなしてその仕入を行なつて来ました。
三 原告は昭和四十年三月三十一日古屋の外交員たる吉田から昭和三十九年度のソーセージのリベートとして一金参万九千円也を受け取りました。従来リベートは大洋漁業より古屋商店を経て毎年一度に受取つていたものであります。そしてその率については一ケ年間の総仕入額の一%を最低として大洋の判断により若干は加算をする事が例とし同業販売店一般に対し行なわれていました。
四 前述リベートの授受に関する取り決めについては原告は直接の取引相手たる古屋との口約によるものでありますが毎年確実にその支払を受けて居りました。
五 <は>大洋漁業は傘下販売店のソーセージ類の再販売価格については自身の売出し価格にて一次二次の卸店に到る迄同一価格を以て販売する様指示して販売手数料は総て後払とするとの取り決めをなし之を実施しております。
六 他方原告は従来より取引ありました香川県最大の共同仕入団体たる香川県青果青品協同組合(以下香青協と称す)に対しソーセージ類の取引についてはリベートとして売上額の七%を提供する事を約し昭和四十年一月初め頃より納入しておりました。同年四月末より<は>ソーセージ類の入荷が途絶え勝ちになり不安を感じて居りました。
七 香川県の大洋漁業二次店クラスの業者で組織する。
香川<は>会は昭和四十年五月一日総会を開催して<は>ソーセージ類の再販売価格の維持と共同仕入団体はリベートの対象としない。若し之に違反したるものは如何なる処分をも甘受する旨誓約書を提出し、申し合せ厳守を誓つております。会長中村秀雄は右誓約書を各会員から受取つております。そして香川<は>会は原告に昭和四十年五月中旬頃右申合事項印刷の書面を郵送して原告に同調を求めました。
八 原告は前前から右独禁法違反の申合事項と類似の協約の有る事は薄々乍気付いておりましたが之等には何ら拘束せられる可き筋合のものでは無しとして引続き香青協へ従来通りソーセージを直送して納品しようとして<は>大洋松山工場へ電話して香青協へ発送方を依頼しました(昭和四十年五月三日)
九 松山工場よりは「岡山の堀田の指図により「香青協へは勿論エビスさんへも送つてはいけない」と言われています。うちの方は単に荷扱をするだけで販売権は持つておりませんので大阪の461の5551へ電話して藤原課長と話をして貰いたい」と言われました。
十 原告は早速藤原課長を電話に呼び出し出荷を懇請しました。五月十一日になつてやつとソーセージ類が希望の約半数だけ入荷しました(但し送状によれば発送日は五月四日)右次第で香青協へは従来の如く直送が叶えられませんのでやむ無く原告の自家用車を以て前述到着の品を香青協へ届けました。この事実は早速地許同業者(株)藤田食料品店から香川<は>会へ報告がありました。
十一 他方第三条に記載に係るリベート一金参万九千円也は該年度総仕入額の約〇、五%にしか相当しませんので了承出来ぬとして古屋の担当者吉田氏に抗議してその不足金額の請求をしました。当の吉田氏は「大洋が呉れぬから仕方が無い」と答えるのみで他に理由を示しません。原告は之を不服として吉田氏に会う度に右リベートの不足金を請求し続けて来ました。
十二 昭和四十年七月二十六日以降古屋の西城戸所長は取引を拒絶し同日吉田氏とした契約を不当に解消して何の連絡をもせず契約の商品を送りません。その上ソーセージ類のリベートは昭和四十年度分は勿論の事前述の不足分も支払う事無くその収支、理由を明らかにしません。
十三 原告は右を不服として電話を以て古屋に抗議した処同店西城戸所長より「信用に不安を感じたので送品は出来ぬ」と言われました。但し原告は人様に不信を蒙る様な取引又はその資産内容の不良なる点を指摘される等は無しとして自負しております。
十四 昭和四十年九月十五日原告は古屋の西城戸氏と電話にて対話原告の引受に係る為替手形一金拾六万参千四拾円也を不渡りとする為前以てその理由たる前述古屋との諸問題を告げ右代金は銀行協会へ供託して之を行う旨申し出ました。右についての詳細は昭和四十一年八月十七日附で公取へ提出した報告書により明らかにしております。
十五 右に相前後して原告は八方手を尽しましたが希望のソーセージは大洋の厳しい規制により一切買付の途が絶たれ今日に到つております。
従つて現在では同業仲間より事欠ぎに買受けて小口店へのサービス程度の商が有り従来の大口卸は一切を失なう破目に立ち到つております。